20年も昔、バブルが弾けた頃、顧問先の社長から、
ある人の相談に乗ってやってくれ、という依頼を受けました。
一流大学を卒業し、大企業の部長まで出世したけれど、
この不況でリストラされて、今度、新しく起業しようと
いう40代の男性とのことです。
ある日、私の事務所にその男性が訪ねてきました。
長身で恰幅が良くて知的な、なかなかの好男子です。
流石は大企業の部長さんという貫禄です。
応接の椅子に腰を下ろし、ゆったりと長い脚を前に
組んで、
「どこか良い得意先はないですかね」と話し始めました。
ふんふんと相槌を打って話を聞きながら
<これはいかん!>と私は心の中で思いました。
人に物を頼む態度ではありません。
サラリーマンの上司として部下に相対する態度が
身についてしまっています。
これではとてもお金を払ってくれるお客様はいない
だろうと思いました。
まず、このエリート意識を払拭しないと起業は難しい
だろうな、というのが私の感想です。
お客様からお金を頂くことは大変なことです。
良い仕事をして、気に入られて、信頼されて初めて
商売が成り立つわけです。
たとえ千円だって、タダでお金を払ってくれるお客はいません。
果たして、彼は起業に失敗して、又、どこかのサラリーマン
になったと、後で聞きました。
その男性の奥様が顧問先の方の友人だそうですが、
「一流大学を出て、一流企業に就職した男性と結婚
して、これで一生安泰だと思ったのに、とんでもない
ことになった」
と嘆いていたそうです。
世の中、戦国時代になって、うかうかしておれません。
常に自己研鑽の必要がありそうですね。